【No.128】 2003年7月25日号

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「あまのじゃく」で行こう

 昔むかし……とは言っても15年ほど前のこと。当時、時代のメガトレンドをあらわすキーワードとして、「情報化」「国際化(ボーダレス化)」「ソフト化」といった言葉が好んで使われた時期があります。時は、昭和末期の経済急成長のまっただ中、バブルが膨張を極める前夜の頃です。

 僕もコピーライターとして、これらの言葉を頻繁に使った覚えがあります。とくに、大手企業が発行する会社案内や入社案内(これらの文章もコピーライターの仕事です)の、冒頭を飾る社長の挨拶文などでは、とても重宝する言葉でした。例えば、「情報化、国際化、ソフト化といった時代のうねりのなか、わが社は……云々……」といった具合。何度もこの言い回しを使っているうちに、すっかり慣用句になって(手垢がついて)しまいました

 ここで頻繁に使っていた「情報化」という言葉について、僕は僕なりのイメージを抱いていました。それは、通信技術の高度化や情報処理技術の進歩により、「地球の裏側で発信された情報も瞬時に届く」「得たい情報に素早くリーチできる」というもの。物理的な距離感が縮まったり、検索性が高まったり、情報の行き交いがスピーディになったりする便利な社会……そんな感じでしょうか。

 確かに15年を経て、ある程度イメージ通りの世の中にはなりました。今や物書きにとってインターネットは欠かせない道具になっています。解らないことを調べるのが、ずいぶん早くなった。一日がかりで図書館に通い詰めなければ得られなかった情報が、いとも簡単に得られるようになった。ネットによる情報収集だけを頼りに文章の二次加工、三次加工で済ませるのは慎まなければなりませんが、表面的な情報収集に手間取ることがなくなったのは、大助かりです。

 ただ、「情報化」には思わぬ付録もついてきました。それは、巷を駆けめぐる情報量が多くなればなるほど、情報そのものの多様性が失われ、一部の情報だけが突出して何度も何度も、“情報の回廊”みたいなところをぐるぐる回り始める、ということ。これを情報の津波現象と称する人もいます。

 わかりやすく言い直せば、トップニュースだけが一度にわあっと大量に駆けめぐり、すっかり消費してしまったら、また次の目新しいトップニュースに群がるということ。(あれほど連日報道されていた白装束の話題が、もう消費されているんですからね。)その一方で、小さいけれど大切なニュース、一部の人が懸念している地味な話題などは、いつまでたっても見向きもされない。情報化社会の進展とやらが、こういうイビツな状況を招くとは、15年前には全然想像もできませんでした。

 今は「一人勝ち」の時代だといわれます。業界トップのシェアを誇る企業(ブランド)だけがますます成長し、収益を維持できるというものです。異業種間の提携でも、大手は大手と組みたがります。そして大手だけがどんどん膨張していって、小さくてもキラリと光る企業(ブランド)の影が薄くなる、あるいは市場から撤退を余儀なくされる……。何だか情報化社会における情報の質と、似たような構造ですね。

 そんな時代に生きている現代人は、大きな波に飲み込まれないよう、バランス良く生きられるよう、もう少し「あまのじゃく」になった方がいいのではないかと、最近つくづく思い始めました。つくづく思い始めたのは数年前からですが、雑誌の取材で慶應義塾大学経済学部の金子勝教授や、精神科医で作家のなだいなだ氏とお会いしてからは、ますます実感として「あまのじゃく」の効用を思い知らされた気がします。

 テレビや新聞のようなメジャーなマスコミでは決して語られることのない斬新な視点、昨日今日起こった出来事に短絡的に動かされるのではなく長ーい歴史の紆余曲折の中で「今」を読み解く知性を、お2人は持っておられた。時代の流れから一歩身を引いて冷静に事を見つめることができる「あまのじゃく」だけが磨きえる、大切な宝物を見る思いがしました。

 今は、トップニュースだけを見てヒステリックに騒ぐようなご時世です。「危険な北朝鮮に制裁を加えろ。そうだ、やっちゃえ、やっちゃえ」「独裁者の国は潰しちゃえ。そうだ、やっちゃえ、やっちゃえ」「残忍な殺人を起こしたガキは吊るしあげろ。そうだ、やっちゃえ、やっちゃえ」……「あまのじゃく」な視点があれば、もう少し違ったリアクションになるでしょうに。

 さて、僕自身も一匹狼のフリーランスの物書きですから、相当「あまのじゃく」なところを持ち合わせている自覚はあります。みんなが群れていると、集団の外側に飛び出してしまう性格ではありますが、お2人のような「極上のあまのじゃく」にはなりきれず、ただの「ヒネクレ者」になっているきらいもある。まだまだ、修行が必要なようです。

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