収蔵No.001
「精神病者私宅監置ノ實況及ビ其統計的觀察」
(1918年出版、2000年11月復刻)

[精神障害]

[大正時代]


●著者/呉秀三、樫田五郎
●発行所/創造出版
●価格/1,500円(本体)
●ISBN-88158-260-7

[この本が生まれた背景]

この本が出版される18年前、1900年(明治33年)に「精神病者監護法」が制定されました。わが国の、精神障害分野における最初の根拠法です。この法律の内容はすさまじいもので、私宅監置、要するに座敷牢を公に認めた法律です。身内に精神病者がいる場合は家族が監禁義務を負う者となり、自宅の中に牢屋を設けるか、土蔵や物置の一部に場所を設けて監禁せよ、と定めているわけです。私宅監禁が行われているかどうか監視するのは警察の役割。当時、精神病患者のための薬や医療は整備されておらず、滝に打たれて治すとか、おまじないで治すなど、民間療法が公然と行われていた時代でもありました。

この現状を見るに見かね、私宅監置の撤廃や精神病院の整備を求めて立ち上がったのが、この資料を記した呉です。呉は当時、東京帝国大学精神病学教室の主任で、現在の松沢病院(東京都世田谷区)にあたる東京府立巣鴨病院の院長でした。呉は病院職員や教室員に呼びかけて数年がかりで全国の私宅監置の状況を調査し、この報告書を専門誌に発表(1918年、大正7年)しました。

これが効を奏して、翌1919年には精神病院法が成立し、病院設置が促進されることになりましたが、私宅監置を認める法律はそのまま1950年まで生き残り、1935年の時点では全国で7000カ所以上の私宅監置が行われていたのです。

この報告書は、1973年、精神医学神経学古典刊行会によって復刻されましたが、その後絶版となり、精神監護法施行百年の節目となる2000年に改めて出版の運びとなりました。

[書かれている内容]

1府14県、105カ所の私宅監置の実状が詳しく書かれており、監置場所の見取り図や写真も記録されています。木造の格子の向こうから顔を覗かせていたり、母屋とは別に建てられた堀っ立て小屋の中で全裸で寝転がっている様子も。その痛ましい光景には、息を呑まずにはおれません。

記述は初版当時のままで旧漢字、旧仮名使いのため、読みとりはかなり困難ですが、精神病者をめぐる歴史の一ページを目に焼き付ける価値は十分にあると思います。また、交通の便さえ整っていなかったこの時代に、一軒一軒を訪れ、詳細なヒアリングを行っていた関係者の努力にも、賛辞を贈りたくなります。

記録内容は、その家の資産状況、家族による処遇の実状、監置されている室内の模写などなど極めて詳細なものです。

[読みどころ]

精神障害をめぐる過酷な歴史の一ページを垣間見れること、これに尽きます。以下の本もあわせて見ると、さらに理解が進むのではないでしょうか。

●精神医学の二十世紀(著/ピエール・ピショー、発行/新潮社(新潮選書)、1400円、ISBN4-10-600572-7)
※精神病者への医療の歴史が書かれています。

●精神障害者の未来を拓くために(話し手/秋元波留夫、発行/共同作業所全国連絡会、発売/萌文社、667円、ISBN4-89491-020-9)
※秋元氏は、ここで紹介している『精神病者私宅監置ノ實況及ビ其統計的觀察』 復刻版の序文解説も担当されています。