●取材ノートから●(10) 2001年3月1日号

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「掻いて癒される」人のアトピー治療

 『迷ったときの医者選び』の取材で聞いた、皮膚科専門医からのお話、今回はアトピーの新しい治療法です。 新しい治療法といっても、怪しげな薬のお話ではありません。

 アトピー患者さんは、皮膚科医から「患部を掻かないように。掻くと悪化しますよ」と言われます。アトピーの症状が重くなって短期間の入院をする人がいますが、無意識のうちにうっかり掻いたりすると、病棟の看護婦さんや主治医に、「ほらまた掻いてる。掻いちゃだめって言ってるでしょ」と叱られます。わかっちゃいるけれど、ついつい爪を立ててポリポリ掻いちゃう。掻くと皮膚表面が荒れて外部からの刺激に弱い肌になってしまう。でも、掻いている時はとても気持ちいいんですよね。

 そんな掻破(そうは、と読みます。掻いたりこすったり叩いたりすること)行動に着目したのは、某大学病院のK医師です。いくら注意されてもついつい掻いてしまうのは、掻くこと自体への依存が強すぎるのではないか、と。K医師はこう言います。

 「ストレスが原因で掻いてしまう人がかなりいる。仕事がうまくいかないとか、私生活でうまくいかなくて、掻くことで癒そうとする一種の中毒症状があるんですね。いつ掻いているかというと、緊張感が緩んだときです。会社でむしゃくしゃしたことがあって、一人の部屋に帰ると、無性に掻いてしまう。掻いて掻いて掻いて掻いて、それで安心してホッと落ち着く。でもそれを繰り返している限り、全然アトピーは軽快していかないわけです」

 そこでK医師が始めたのは、精神科治療で用いられているカウンセリングの手法。傾聴(耳を傾けて人の話を聴く)に時間をかけて、患者を掻破行動に追い込んでいるストレスの中身を浮き彫りにする。そして、ストレスが原因で掻いていること自覚させる。掻くこと以外でのストレスの対処法を探る。そんな方法で、掻破行動への依存を弱め、アトピー症状の緩和につながっている人が結構いるとのこと。

 皮膚科診療に限りませんが、一人当たりの診察時間は普通、数分程度です。カウンセリングの手法を採り入れると、ゆうに20分、30分がかかってしまうのですが、時には精神科医師によるリエゾン診療(診療科をまたがって診療すること。主に精神科医が他科の患者を診ることが多い)も採り入れながらこなしているとのこと。「話をしながら、泣き出す人もいますよ。僕もつられてこみ上げてきたりする。現代社会はずいぶんストレスの多い社会だとつくづく思う」とK医師。

 アトピー治療で取材したのは10人以上ですが、この治療法は初めて聴きました。日本で最初にこれを採り入れた開業医の女医さんがほかにいるようで、今は共に症例を重ねつつ、学会発表などで他の医師にも啓蒙しているところだそう。

 傾聴って、たぶん医師の方も慣れないうちはかなり疲れるでしょうね。時間がかかるから、患者数を多くさばくこともできない。事務的な薬の処方に比べてどの程度の保険点数になるのかは知りませんが、治療側からすると、かなり面倒なやり方ではあるでしょう。今後これが治療法として一般化するのかどうか判りませんが、確かに一つのアプローチではあるよなあと思いながら帰ったのでした。

 医師という職業はかなりタテ割りというか、自分の診療科に関することはやるけれども、他の診療科との連携は全然無知だったりしますよね。例えば火傷治療の皮膚移植手術は巧みだけど、日常生活での不便さまでは考えず、自分の手術だけ成功すればそれでいい、と思っている専門バカが多い。そういう意味でも面白い試みだと思ったのでした。

※K医師は「皮膚科医学界の若きリーダー」として名の知れた方。名前は「迷ったときの医者選び 東京」でご覧ください。

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